7. 「みる」ことから心を探る
https://gyazo.com/93a402d72f37170c3763894b196d1a0b
1. 観察法の定義と種類
コミュニケーションは2つに大別
言語を介したコミュニケーション
顔の表情や声の大きさ、視線、身振り手振り、ジェスチャーなどによる非言語的なコミュニケーション
相手のなにげない仕草や行動などをまさに「観察」することによってはじめて成立する
エラーや歪みをなくし、心理学的に正しく科学的な観察を実現するためには、一定の手続きや体系に従った「観察法」が求められる
「人間や動物の行動を自然な状況や実験的な状況のもとで観察、記録、分析し、行動の質的・量的特徴や行動の法則性を解明する方法」(中澤, 1997) 科学的観察法は2つの観点から分類できる
観察事態
人間の行動を人為的な操作を加えずにありのままに把握する
条件と行動との共変関係を通して両者の因果関係を明らかにする
一定の条件下において、人間の行動や反応に影響を与えると期待される条件を変動させる(独立変数の操作) 条件変動によって、実験参加者の内的状態や行動に変化がないかを観察する(従属変数の測定) 観察形態
被観察者に観察者の存在が明示され、直接に観察を行う方法
観察者側の意図や目的を明示したほうがより有益な情報を得られることもありえる
被観察者に観察者の存在が明示されず、観察されていることを意識させない方法
ビデオ・カメラやマジックミラーなどが用いられることがある
2. 観察の手法
2-1. 時間見本法
行動を任意の時間間隔に区切り(時間単位)、その区切られた一定の時間単位ごとに対象者の行動を観察する 非社会的遊びとは、周囲に遊び可能な相手がいる状況において、社会的相互作用のみられない遊びを指す 入園直後の4歳児(time1)、約半年後(time2)に行われた
社会的スキルの測定は、time2と卒園直前(time3)の時点で担当教師が各生徒の社会的スキルを評定した
撮影された行動は、10秒を1インターバルとして合計で81単位に分解された
各インターバルの間に観察された代表的な行動を一つ選び、その行動を「沈黙行動」、「ひとり静的行動」、「ひとり動的行動」のいずれかに分類するという手続きを用いた
各人の各カテゴリーの生起頻度を算出して、これを81で除したものを非社会的遊びの出現率とした
沈黙行動がよく観察された幼児は、主張的スキルが低い傾向などが男女を問わず見出された
2-2. 事象見本法
観察対象となる事象や現象を明確に限定する点が特徴
焦点を向けた特定の行動やイベントが、どのようにして生起して、どのような経過をたどり、最終的にどのような帰結に至ったのかについて組織的に観察する
特定の時間と空間の中で対象とした行動や事象が生起する頻度を調べる観察手法ということも可能
北折(2007)は、交差点におけるドライバーの一時停止行動について観察し、車種やドライバーの特性との関連について調べた 一時停止の有無、シートベルト着用の有無、携帯電話の使用、車体の改造そしてごみのポイ捨てなどの事象に注目してその頻度を記録した
計測にあたってはこれを記録するためのチェック・シートを作成した
2-3. 参加観察法
基本的には、研究者自身が研究対象となる現場に身を置いて、そこに生起する現象を多角的、長期的に観察する方法
現場に密着するという点から、生態学的妥当性の高い研究方法であると考えられている 3. 観察した情報の記録
心理学の研究である以上、観察された事象や現象は何らかの形式でデータ化され、エビデンスとして記述される必要がある
ここで述べるデータ化とは、数量化するという限定された意味ではなく、それも含めて、何らかの形式でエビデンスとして残す作業を意味する
記録方法
質的方法
量的方法
3-1. 行動描写法(自由記述法)
カテゴリー分けをしたり、評定尺度を使ったりせずに、観察者の言葉で自由に記述する方法
場合によっては、ビデオカメラなどが使用される
この方法は、現象や行動の生起や結果の過程を自然にとらえることができ、観察対象や現象を忠実に再現できるというメリットがある
記録に時間がかかり、のちの分類や分析が比較的難しいというデメリットもある
自由記述といっても、貴重な情報を要領よく記録し、データ整理を効率的にそして正確に実施するためにはやはり記録用紙を要しうることが望ましい
西田(2008)の例では、いくつかの観察単位で区切ったり、観察時の天候や時間などの基礎データを記録できる欄を用意するなどの工夫が図られている 3-2. チェックリスト法
対象を観察する観点や事象が明確な場合に使用される手法
実際の観察場面で該当する行動が生起した場合にはリストにチェックを入れて行動の生起頻度を記録するという方法
3-3. 評定法
観察の具体的な行動を一つ一つ取り上げるのではなく、その全般的な傾向をいくつかの評価次元にしたがって評定する
この場合、観察対象者の行動や出来事の程度や強度を5段階尺度や7段階尺度によって評定する
評定法は、チェックリスト法に比べて観察者の主観に左右される程度が大きいことが問題点として挙げられる
4. 観察法の利点と注意点
4-1. 観察法の利点と不利な点
よく用いられる研究領域の一つが、子どもの発達研究
自分の行動や感情について、言語を使うことに習熟していない
実験的手法に比べて観察者と被観察者の双方において十分に統制がとれているわけではないので、歪みやバイアスの問題が生じやすい
ビデオ・カメラなどを用いて、対象を「正確に」そしてありのままに記録したとしても、それを符号化し、意味のデータに変換するのは人間
観察される対象も主に人間
4-2. 妥当性の問題:観察対象の明確化
観察研究では研究目的を明確にする必要がある
観察対象を明確にした上で、それを達成するために観察方法や記録方法が準備されなければならない
観察対象とすべき行動や現象が正しく正確に観察されているかどうかという問題は妥当性の問題でもある チェックリスト法でいえば、第1に、設定した行動カテゴリーのすべてが操作的に定義されている必要がある
抽象度の高い概念によって指し示される現象や行動を、実験、質問紙、観察などによって測定できるように定義すること
たとえば、西田(2008)は、スクールバスの乗車中の行為を観察する状況で「会話」というカテゴリーを設定する場合を挙げている 観察に先立って「会話」を「バスの同乗者とのあいだで、互いに話をしたり聞いたりしている状態」と操作的に定義しておけば、携帯電話への応答という現象は記録対象外となり、観察対象を明確にできる
第2に、相互のカテゴリーが排他的な関係になっているかどうかという問題がある
たとえば、講義中の大学生の行動観察において「無関心」というカテゴリーと「睡眠」というカテゴリーの両方があった場合、講義に対する消極的な行動がどちらのカテゴリーに当てはまるか弁別が難しい状況もありえる
「無関心」と「睡眠」というカテゴリーは排他的な関係でないとみなされる
第3に、設定した行動カテゴリーによって、観察の対象となった行動を網羅的に分類できるかどうかが問題
対象者の任意の行動が、あらかじめ設定したカテゴリーのどれか1つに必ず分類できる必要がある
そのためには、観察対象の行動などを事前にしっかりと把握しておく必要がある
しかし、予想していなかった行動が観察される場合もあるので、「その他」などのカテゴリーを用意しておく必要がある
4-3. 信頼性の問題:観察者のバイアスなど
観察者が人間である以上、観察者によって行動の捉え方や感じ方が異なってくる
人間の観察には様々な歪みやエラーが含まれていることが認知心理学的な研究から得られている
よって、ある観察者の観察が当人のバイアス(偏り)を含んだものなのか、一般的な傾向であるかについて確認する必要が生じる場合もある これは観察における信頼性の問題であり、複数の観察者間の一致率によって表現される
この信頼性を高めるには、複数の観察者による事前訓練がとても大事になる
準拠枠訓練とは、観察者が共通の準拠枠を共有して、それによって観察や分類のスキルを向上させるというもの
たとえば、ビデオ内の事例を見て観察者同士で議論し互いの視点を共有する、また、得点化にあたっては専門家にも参加し、お互いの視点を提供し、視野を広げる工夫が信頼性を高める